コラム
初めての飲食店開業。開業資金の相場や活用できる融資制度や助成金など

自分で飲食店を始めたいと思い、開業資金を貯めたりと開業に向けて準備している人もいるのではないでしょうか。飲食業界は開業のハードルが比較的低いと言われており、新規参入や独立を目指す人もいます。しかし、実際に開業する際には、開業資金としていくらくらい用意すればよいのでしょうか。本記事では、飲食店の開業資金の平均や内訳について紹介します。実際に必要な開業資金の計算シミュレーションも見ていきますので、飲食店を始めたい方はぜひ参考にしてください。

飲食店を始めるときに必要な開業資金はいくら?

日本政策金融公庫が2012年に実施した調査によると、飲食店の開業資金の平均は883万円という結果でした。(不動産を購入した企業を除く。)おおよそ900万円程度必要という調査がある一方で、近年では1,000万~1,500万円必要と言われることもあります。そのため、飲食店開業のために必要な開業資金は、お店の業態や規模、出店エリアや物件の状態などによって、その差が大きく異なることを理解しておくとよいでしょう。
(参考:日本政策金融公庫「創業の手引+」p1)

 小さい飲食店の場合は?

開業後のリスクを低く抑えたい場合、小さい規模の飲食店開業を目指す人もいるでしょう。店舗規模がおおよそ10坪以下で、客席数が10席前後程度のお店を「小さい飲食店」と想定すると、この場合の開業資金は、おおよそ500万円程度と言われています。しかし、どんなに規模が小さくても、内装などにこだわりたい場合はこれよりも高くなることを想定しておくとよいでしょう。

開業資金の主な内訳

開業資金には、主に「物件取得費用」「店舗投資費用」「運転資金」の3つが該当します。ここでは、それぞれどのような費用なのか、また相場などもあわせて解説します。

 飲食店の物件取得費用

物件取得費用とは、「店舗用の物件を契約する際に必要な費用」のことです。この中には以下のような費用が含まれます。

内訳相場
保証金(敷金)家賃の10~12カ月分
礼金家賃の0~2カ月分
仲介手数料家賃の1カ月分
造作譲渡費内装の状態、経過年数などによって異なる
前家賃契約日からその翌月分までの家賃分

この物件取得費用の内、最も金額が大きいのが、「保証金(敷金)」です。償却額が設定されているのが一般的なため、退去後は保証金から償却額を差し引いた金額が返ってきます。また、礼金は、契約時にオーナーに支払う費用ですが、設定さていないエリアもあるようです。

なお、造作譲渡費は、前の店舗の内装や設備をそのまま使用する「居抜き物件」の場合に必要で、前の借主に対して支払う譲渡代金のことを指します。

店舗投資費用

店舗投資費用とは、「店舗で営業が出来る状態にするための費用」のことです。主に以下の費用が含まれます。

費用項目
厨房機器費(シンク、ガス台、冷蔵庫、オーブンなど)
外装費(看板など)
内装・設計費(壁、床、照明、水回り、ガス、電気、インテリア、設計費など)
備品費(調理器具、洗剤などの消耗品、食器など)
レジ導入費(店舗のレジ)
販売促進費(宣伝チラシの制作費、グルメサイトへの掲載費など)
従業員募集費(販売スタッフやアルバイトの採用費)

これらの費用は、相場を一概には言えません。例えば、店舗骨組みだけで内装などが全くない状態で契約をする場合は、全てゼロから施工する必要があるため、多くの費用が必要になります。居抜きの場合は、この費用を安く抑えることができますが、店舗クリーニング費用なども必要になるでしょう。それぞれ依頼する業者に見積もりをとり、全部でどれくらいの費用が必要なのかを把握することが重要です。

運転資金

意外と忘れられがちなのが、開業時の「運転資金」です。運転資金として用意しておきたい相場の金額は、最低でも「毎月かかる固定費の6カ月分以上」準備しておくのがよいでしょう。日本政策金融公庫の調査でも、お店を軌道に乗せるために6カ月以上かかった企業が約6割と過半数を超えているのがわかります。開業前に多めの運転資金を用意し、経営が軌道に乗るまではこの資金で仕入れをするなど、開業直後のシミュレーションは入念にしておきましょう。
(参考:日本政策金融公庫「創業の手引+」p3)

飲食店の開業資金をシミュレーションしてみよう

さまざまな費用が開業資金として必要になりますが、物件の状態によってその金額は大きく異なることがわかりました。ここでは、それぞれの取得する物件の状態ごとに、実際に開業資金をシミュレーションしてみましょう。

なお、記載した費用項目および費用は一例です。どのような店舗にするかで開業資金は大きく異なるため、以下のシミュレーションは参考程度に捉えるとよいでそう。また、店舗投資費は、実際に見積りや作業内容を確認し、施工業者との打ち合わせをしっかり行う必要があります。

居抜き物件 スケルトン物件
【物件取得費】
保証金 200万円 200万円
礼金 20万円 20万円
仲介手数料 20万円 20万円
造作譲渡費 200万円 0円
前家賃 20万円+日割り額 20万円+日割り額
物件取得費合計 約460万円 約260万円
【店舗投資費用】
厨房機器費 30万円 200万円
外装費 20万円 20万円
内装・設計費 200万円 500万円
備品費 20万円 70万円
レジ導入費 0円 10万円
販売促進費 20万円 20万円
従業員募集費 10万円 10万円
店舗投資費用合計 約300万円 約830万円
運転資金 120万円 120万円
総合計 約880万円 約1,210万円

※居抜き物件の金額は、設備などがそのまま流用できることを想定

居抜き物件

居抜き物件(いぬきぶっけん)とは、過去に入っていたお店の内装や厨房設備、空調設備、什器などの設備が残ったままの物件のことを言います。設備や家具などをそのまま使用することができるためコストが抑えられ、開業までの時間を大幅に短縮できるのがメリットです。

居抜き物件の開業資金の目安は「1坪あたり20〜30万円程度」と言われています。飲食店では高価な調理設備や排気ダクト工事などが初期費用の多くを占めますが、これらの設備がそのまま使用できる状態であれば、大幅に初期費用が削減できるでしょう。ただし、備わっている設備が故障している場合もあるため、想定外の費用がかからないようインフラ設備は稼働するか確認しておくことが重要です。

スケルトン物件

スケルトン物件とは、店舗内の床・壁・天井・内装などが何もない建物の躯体だけの状態の物件です。つまり、コンクリートの打ちっぱなしの状態で、居抜き物件の反対の意味として使われています。何もない状態からのスタートとなりますので、店内のレイアウトなどを自分好みに自由に決められるのがメリットです。

「1坪あたり50〜60万円前後」が開業資金の目安と考えられており、居抜き物件と比較すると高額です。工事内容からも開業までに時間を要しますが、工事内容によっては、居ぬき物件の一部のみの修繕工事よりもスケルトンで一から工事する方が見積もりも出しやすく、想定以上に費用が抑えられるケースもあるでしょう。

自己資金ゼロでも開業できる?開業資金の調達方法

開業資金が不足している場合、どのような資金調達方法があるのでしょうか。

親族関係からの資金調達

数ある資金調達方法の中でも、最も多い資金調達方法が、家族や親族などの血縁関係者からの資金援助です。配偶者や兄弟、両親などの血縁者は、最大の理解者でもあるため、熱意を伝えれば資金援助をしてくれるという可能性は高いようです。

ただし、返済義務の有無などについては口約束ではなく、書面に残しておくことが望ましいでしょう。血のつながりがあるからこそ曖昧になってしまいがちな細かい条件面などを書面に残し、後々のトラブルを防ぐことが大切です。

 融資制度の活用

銀行や各種機関、都道府県や市区町村などの地方自治体による融資制度を活用する方法です。中でも、飲食店を開業したいという人が最も多く利用している融資制度の一つに、日本政策金融公庫の融資制度があります。この他にもさまざまな融資制度がありますが、それぞれ融資を受けるための要件が定められているので、よく確認してから活用できるかを検討しましょう。
(参考:日本政策金融公庫「新創業融資制度の概要」

助成金・補助金の活用

国や地方自治体などが出資している助成金や補助金を活用するのも一つの手段です。創業資金にあてられる「創業補助金」の他にも、スタッフを雇い入れる際の費用にあてられる「キャリアアップ助成金」など、さまざまな種類があります。飲食店開業時には活用できる助成金がないかを、前もってチェックしておくとよいでしょう。

ただし、助成金や補助金を活用する場合には、利用できる時期に制限があったり、実際に資金が支払われる時期が遅かったりするため、すぐに利用したいという方には不向きかもしれません。しかし、他の資金調達法と異なり、返済の義務がない点は大きなメリットと言えるでしょう。

少ない開業資金で飲食店を始める方法

飲食店開業には、多くの開業資金が必要なことがわかりました。飲食店を始めたい人の中には、なるべく少額の資金で開業できないのか検討する人もいるかもしれません。ここでは、開業資金を抑えて飲食店営業を始める方法をご紹介します。

シェアキッチンを利用する

シェアキッチンとは、複数の料理人や飲食店が共同で使うキッチンのことです。飲食店を開業しようとすると、物件の取得費用や内装、外装工事の費用、厨房設備を整える費用など多額のコストがかかります。しかしシェアキッチンには始めからこうした設備が設置されているため、初期投資を抑えながら飲食店が始められます。まずは、シェアキッチンでのテスト営業を通じ、開業資金を貯めてから自分の店舗を出すこともできるでしょう。
(参考:シェアキッチンとは?特徴や利用方法運営事例について)

テイクアウト専門店を検討する

近年、感染症対策や消費税率の改定により、テイクアウト専門店が増加しています。料理の持ち帰りに特化したテイクアウト専門店は、客席などを設置する必要がないことから、開業資金を抑えて営業を始めることが可能です。この場合、自分が提供したいメニューがテイクアウトに適しているのか、持ち帰りしやすくするためにはどのような工夫が必要なのかなどを検討することが重要となります。
(参考「テイクアウト専門店を開業しよう!メリット・デメリットや営業許可取得について」)

必要な開業資金を準備して開業しよう

初めて飲食店を開業する際は、具体的にどのような費用が開業資金として必要なのかわからないことも多いのではないでしょうか。開業資金は、店舗の規模や物件の状態によっても大きく異なります。開業後の自分の生活を守るためには、自己資金はいくらあるのか、それ以外の資金調達の方法として何があるのかを検討し、無理のない範囲で開業することがポイントとなるでしょう。必要な費用を計画的に準備して、飲食店開業を目指してみてはいかがでしょうか。